無給だったがシェフは長男の話を聞いてくれた。レストランの仕事の面白さ、客が一人も来ない時の辛さも教えてくれた。すると長男も次第に人の話が聞けるようになった。皿洗いからじゃ芋の皮むきができる自分に幸せを見出したころ別のレストランから仕事の話が来た。今度は有給である。日本では5件のレストランを経験した。一つは名の知れた三ツ星レストランだった。ところがスタッフ全員が無表情で働いている環境は嫌だと1ヶ月で退職した。ネットで探した次のレストランはサンフランシスコだった。当時息子はまだ17歳ぐらいだったと思う。親戚縁者から餞別をもらい、SF空港に到着して迎えが来るまでに居眠りしたところスリにバックを盗まれ一文無しになった。これもいい人生勉強かと思い援助はしなかった。この時期を境に息子は少しづつ大人になっていった。嫌いだった読書も料理関係のことであれば興味深く読むようになった。口下手で思ったことが言えなかった性格も次第に社交的になり自分で人脈を築くようになった。そして仕事場で人を使うようになると、メキシコ人などマイノリティーのコック達が慕ってくるようになった。なぜなら若い時の苦労が人の痛みを聞くという心を育ててくれた。

 今子育てで悩んでいるママ達の話を聞くと、ああ私もこんな時があったなと思う。しかし幼年期の苦労は成人してからの苦労に比べればミクロである。幼年期の子育ての苦労は楽しめるが、成人すると苦労は重くなる。時には耐えられない時もある。長男が小中学校の頃私は仕事や子育てに追われていた。長男とは話す時間を十分持てなかった。長男も思春期になると自分からは話してこない。悩みはいっぱいあったはずだった。男の子は弱いくせに親に弱いところを見せたくないという行動をとる。今はそんな自分の経験値から園児でも子供なりに悩んでいる子はわかる。幼稚園から小学校に上がると親も子供も今以上に忙しくなる。一つ覚えていてほしい。子供の本当の声を聞けるのは学校の戦績でも塾の先生でもない。子供の顔に出るSOSのサイン、叫び声は親にしかわからない。

黑部 美子(インターナショナル・ランゲージ・ハウス CEO)

2024年度入園希望者対象のILH幼稚部/プレスクール入園説明会を10月3日に行います。

入園説明会のお申込みは上記アイコンよりどうぞ。

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